ミッドナイト・ホモ・サピエンス  
         第21回文藝賞受賞作品

主人公は〈動物園〉の飼育係―。
人間と動物との共存を可能と信じ〈飼育〉という仕事に
誇りをもっていたが、わが子のように育ててきたチン
パンジーの赤ん坊が死ぬことによって自分の無力を
嘆く。 やがて彼は、野生の動物たちをオリに閉じこめ
て見世物にする人間の身勝手を思い知る。
飼育の問題を通して現代文明の末路を暗示し、
動物の立場から人間中心主義を告発した小説。

       河出書房新社刊。装丁者:横尾忠則
       全155ページ・20cm。定価 980円


−著者からのメッセージ−











『ミッドナイト・ホモサピエンス』について

行き過ぎた現代文明を批判する小説が書けないだろうか…。
5年前よりそのような妄想に取り憑かれていた。
しかし未熟な私にはそれを描ききることはできなかった。

《風景が突如新鮮に》

 ある日、私は動物園に出かけた。休日で何もすることはなかった。
私は漫然と動物園の中を歩き回りながら半日を過ごした。そして
猿たちの檻の前に差し掛かった時、見慣れないはずの動物園の
風景が異化したのだった。私はその時、構想倒れしていた自分の
小説を思い出した。この動物園で飼育されている動物たちは、
文明社会の中で管理されている人間と同じではないだろうか…。
動物園全体をタテ糸に、類人猿を飼育する人間の目をヨコ糸にして
文明批判ができないだろうか。幾度となく動物園に足を運び、また
図書館にて納得ゆくまで資料を調べた。私には類人猿(ゴリラ・チン
パンジー・オランウータン)のことも、飼育係の業務内容もまったく知識
がなかったからだ。小説に行き詰まるたびに動物園を訪れた。
猿舎の前で途方にくれ、佇んでいた私を逆に救ってくれたのも、また
猿たちだった。彼らは作品の進むべき方向性を無言のうちに示してくれた。

《告発の唯一の方法》

 私は今回の作品を書き進める上で、ある実験を試みた。
主人公である飼育係を世の中から逸脱した人間、すなわち自閉的破壊
主義者として表現しようとした。動物園という名のサナトリウムに隠遁する
現代の若者だ。野生動物を飼育する人間のフィルターを透して現代を描き
たかった。ドロップアウトした人間は決して暴走族や街の不良たちではない。
彼らは夢と現実のはざまですねているだけだ。真にドロップアウトした人間は
したたかな生活力が必要であろうし、また哲学に近いほどの信念を持っている
はずだ。私はこの論理に基づいて小説を書き進めた。もし爛熟した今を告発
できるとすればこれ以外にない。それが唯一の私の方法論だった。
しかし同時に作品は、現代の文明に背を向ける若者を描きながら、それを享受
している自分をも露呈した。恥にまみれた己そのものだった。私はその恥にまみ
れて生きていかなければならない。そしてその痛みの中から生まれる作品を
今後も排出したいと考えている。



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